天然物化学や生命科学研究において,観測対象の生物活性分子やタンパク質の蛍光標識などに,アジドとアルキンとの環化付加反応に代表される「クリックケミストリー」が広く用いられている1)。特に,無触媒でのアジドとシクロオクチンとの環化付加反応に注目が集まっている。これに対して,最近筆者らは,アジドや環状アルキンの特性を引き出すことで,クリック反応を連続的に行う手法の開発に取り組んでいる。
例えば,2種のアジド基を併せ持つジアジド1に対してシクロオクチン2を作用させると,意外にも,かさ高い芳香族アジド基で優先して環化付加反応が進行することを見いだした(図1)2)。このとき,両オルト位の置換基によってアジド基とベンゼン環との共鳴が阻害され,その結果,環状アルキンとの反応性が著しく向上していることを明らかにした。
また,2種のアルキン部位を有するジイン3において,反応性の低い末端アルキンを選択的にクリック反応に利用できる手法の開発にも成功した(図2)3)。具体的には,ジイン3に対して銅塩を作用させるだけで,環状アルキン部位では選択的な錯形成によってアジドとの反応が抑制でき,末端アルキン部位でのアジドとの環化付加反応を選択的に進行させられることを明らかにした。
今後,これらの知見を基盤として多彩な機能性分子を順に連結できる手法開発などの,クリックケミストリーに関する新たな展開が期待される。
1) J. C. Jewett, C. R. Bertozzi, Chem. Soc. Rev. 2010, 39, 1272.
2) S. Yoshida et al., Sci. Rep. 2011, 1, 82.
3) S. Yoshida et al., J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 13590.
吉田 優・細谷孝充 東京医科歯科大学生体材料工学研究所