日本化学会

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細胞内タンパク質結晶を使った生体機能材料設計


In cell protein crystallization for designing biomaterials

 タンパク質の自己集積反応を利用したナノ構造体の構築が盛んに研究されている1)。ワイヤーやチューブ,ケージ等,様々な構造体の合成が可能であるものの,発現できる機能に制限がある。そこで,新たなテンプレートとしてタンパク質結晶が注目されている2)。特に,細胞内のタンパク質結晶化現象を巧みに利用することにより,筆者らは,従来の方法では不可能な酵素の細胞内one-pot合成と,長期安定化,徐放剤としての利用を一度に達成した3)。多角体ウイルスは,昆虫細胞に感染すると多角体と呼ばれるウイルスを内包し,保護する結晶性タンパク質を産生する。多角体結晶はウイルスの安定化のために,pH10以上で溶解する。そこで,多角体の一部をタグとして融合体した酵素と,至適pH付近で溶解するよう分子設計した変異多角体を昆虫ウイルス内で共発現させることにより,目的の酵素を乾燥状態でも安定に保護し,かつバッファーに浸漬することにより酵素を徐放する複合材料の合成に成功した(図)。この手法を用いると,煩雑なタンパク質精製や結晶化を一切必要としない材料合成が可能となる。内包するタンパク質,鋳型となる結晶性タンパク質の組み合わせにより,無数の機能材料の合成が実現できる。さらに,in cell構造解析の新しい手法としての大きな可能性も秘めている。今後,本研究領域の展開に注目していただきたい。

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1) B. Maity et al., Curr. Opin. Chem. Biol. 2015, 25, 88.
2) S. Abe et al., Chem. Commun. 2016, 52, 6496.
3) S. Abe et al., Adv. Matter. 2015, 27, 7951.
上野隆史 東京工業大学生命理工学院