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新しい環化重合:環状ユニットのみから構成される高分子の合成

Cyclopolymerization of Bifunctional Diazocarbonyl Compounds

一般に,2 つ以上の重合性部位を有するモノマーの重合においては,架橋高分子が生成する。一方で,重合性部位同士を結ぶ連結部の構造を適切に設計したり,低いモノマー濃度条件下で重合を行うことで,分子内環化反応と分子間反応とを交互に繰り返しながら重合が進行する場合がある。このような重合を「環化重合」と呼び,得られる高分子は,主鎖に沿って多数の環状骨格を有する構造となる。そのため,環状骨格を持たない高分子に比べて高い熱安定性やガラス転移温度を示し,また,環状骨格内へのイオン等の取り込みが可能となる。
 環化重合の代表的なモノマーとしては,ジビニル化合物が挙げられ,これまでに多数の環化重合体が実際に合成されている1,2)。一方で,筆者らは最近,モノマーとしてビスジアゾカルボニル化合物を用いた新たなタイプの環化重合に成功した3)。この重合では,モノマーからの脱窒素を伴いながら成長反応が進行し4),主鎖のsp3炭素骨格が1 炭素ユニットから構築されるため,炭素2 ユニットごとに伸長するジビニル化合物の環化重合とは異なり,環状骨格内および環状骨格間に無置換の主鎖CH2ユニットを一切含まない環化重合体が生成する。
 今後は,このような新しい環化重合の手法を用いることで,主鎖まわりに多数の環状骨格が集積したことによる効率的なイオン等の捕捉や,モノマーの連結部へのキラルユニット導入による光学活性高分子の合成などが期待される。

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1) G. B. Butler, J. Polym. Sci., Part A : Polym.Chem. 2000, 38, 3451.
2) T. Kodaira, Prog. Polym. Sci. 2000, 25, 627.
3) H. Shimomoto, E. Ihara et al., Macromolecules 2016, 49, 8459.
4) E. Ihara, Adv. Polym. Sci. 2010, 231, 191.

下元浩晃・井原栄治 愛媛大学大学院理工学研究科