金属ナノ粒子は様々な分野において活用されている。近年,バルクで混ざらない金属元素の組み合わせの固溶型合金ナノ粒子が合成され,材料化学のフロンティアが格段に広がった1)。また,燃料電池の電極触媒として高い酸素還元能を有するコアシェル合金ナノ粒子が模索されているが,長期安定性が産業上の課題になっている。このような背景のもと,各種合金ナノ粒子の熱力学的安定性や機能の理論予測に一定の期待がされている。近年の超並列第一原理計算では,単成分系で2057 原子(約4.2 nm)2),合金系では1289 原子(約3.5 nm)のナノ粒子3)のベンチマーク計算が報告されており,現実サイズのモデルに基づく物理化学的議論が可能な時代に突入している。
最近筆者らは,711 原子(約2.8 nm)のナノ粒子モデルを用い,異なる配置・組成のPd-Pt 合金系について,電子状態・安定性を解析した4)。ナノ粒子固有の電子状態を明らかにするとともに,バルクでは高温でしか固溶しないPd とPt がナノ粒子では低温でも安定に固溶することが理論的に示された。混ざらない元素同士を固溶化することで新機能発現を目指す元素間融合を元素戦略として推進する有効性を支持する成果である。
実サイズナノ粒子の第一原理計算は,もはや一切夢ではない。普通のユーザーが普通に実サイズ・実形状の計算を実行し,様々な示唆を得ることのできる時代はすぐそこまで来ている。
1) 例えば,K. Kusada, M. Yamauchi, H.Kobayashi, H. Kitagawa, Y. Kubota, J. Am.Chem. Soc. 2010, 132, 15896.
2) Á. Ruiz-Serrano, C.-K. Skylaris, J. Chem.Phys. 2013, 139, 054107.
3) P. R. C. Kent, J. Phys. Conf. Ser. 2008,125, 012058.
4) T. Ishimoto, M. Koyama, J. Phys. Chem.Lett. 2016, 7, 736.
古山通久 九州大学/物質・材料研究機構/広島大学
石元孝佳 広島大学