金属-有機構造体(Metal-Organic Framework:MOF)は,有機配位子が金属イオンを架橋して形成する結晶性の高分子錯体であり,ナノメートルサイズの均一な空隙を有する。物質分離の観点から有効なのは,構造の均一性に基づく"サイズ効果"の利用である。ここでは,MOFにおける"サイズ効果"を1)空隙の窓径に基づくサイズ排除と,2)骨格の構成要素が置換する際において重要なサイズ適合性,に大別し,それぞれの研究例を紹介する。
気相中の中性分子に対して単純なサイズ排除 1)が起こり得る一方で,溶液中のイオン性物質に対しては静電相互作用も関与する。Guo ら2)は,直鎖状のポリスチレンスルホン酸存在下でCu2+と芳香族カルボン酸を反応させ,空隙にSO4-基を内包するMOF を合成した(図)。カチオン選択性はK+>Na+>Li+≫Mg2+であり,Mg2+の低い選択性はサイズ排除効果で,アルカリ金属の選択性はSO4-基-カチオン間の静電相互作用で説明される。
Plabst ら3)は,テトラキスリン酸とLa3+およびNa+が形成するMOF におけるNa+とのイオン交換選択性が,Li+>K+>Rb+≫Cs+であることを示し,この選択性の決定要因は"イオンサイズと静電相互作用"であると結論づけた。この場合の"サイズ効果"は前述2 つ目の骨格に対するサイズ適合性である。筆者らも,サイズ適合性と静電相互作用がイオン交換選択性を決定する系を見いだしており,結晶構造の歪みが反応機構をさらに複雑化する可能性を明らかにした4)。
新たな機能性を有する分離場の設計を可能にするために,MOF で起こる複雑な反応のより詳細な解明が必要である。
1) J. Lin, Science 2016, 353, 121.
2) Y. Guo et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 15120.
3) M. Plabst et al., J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 18112.
4) Y. Tasaki-Handa et al., Dalton Trans. 2014, 43, 1791.
半田友衣子 埼玉大学大学院理工学研究科