日本化学会

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希土類配位高分子の励起エネルギー移動

Energy Transfer in Lanthanide Coordination Polymer

光励起状態にある分子のエネルギーが別の分子に移動する「励起エネルギー移動」は光化学分野における重要な研究対象である。この励起エネルギー移動は光触媒機能や発光機能の観点からも注目を集めている。ここでは希土類イオンの励起エネルギー移動に関するトピックスについて紹介する。
 希土類イオン間のエネルギー移動は,希土類イオンの発光バンドと吸収バンドの重なりで議論される。特に無機材料化学の分野では,希土類イオン間のエネルギー移動によるアップコンバージョン発光などが発表され,研究が活発化している。この希土類イオン間のエネルギー移動に関して,温度依存型のエネルギー移動現象が2013 年に発見された1)。この温度依存型エネルギー移動は2 種の希土類イオンを有機配位子で連結した配位高分子中で発現する。Tb(III)イオンとEu(III)イオンを導入した系において,-100℃では緑色発光,20℃付近では黄色発光,そして100℃を超えると赤色発光を示す。
 現在では様々な構造の希土類配位高分子が報告され,超低温(4K)における温度依存型エネルギー移動が起こることも発表されている2)。このことは,希土類配位高分子中のTb(III)イオンからEu(III)イオンへのエネルギー移動に活性化エネルギーが存在することを示している。最近,畑中らは活性化エネルギーが連結配位子の励起三重項状態に起因することを計算化学によって明らかにした。
 希土類配位高分子中の励起エネルギー移動の研究は,学術的視点からだけでなく,温度センサーなどの応用面からも注目されている3)

chem70-06-01.jpg1) Y. Hasegawa et al., Angew. Chem. Int. Ed.2013, 52, 6413.
2) E. Bouwman et al., Inorg. Chem. 2015, 54,11323.
3) M. Hatanaka et al., Chem. Sci. 2017, 8,423.

長谷川靖哉 北海道大学大学院工学研究院