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フッ素脱離を基盤とする有機フッ素化合物の分子変換

Transformations of Organofluorine Compounds Based on Fluorine

これまでの遷移金属活性種を用いた炭素-フッ素結合切断の大部分は,低原子価錯体への酸化的付加により達成されてきたが,このような反応では往々にして厳しい反応条件が必要となる1)。これに対し,遷移金属フルオロアルキル錯体の重要な素反応過程である「β-フッ素脱離」「α-フッ素脱離」を活用し,より穏和な条件での炭素-フッ素結合切断を鍵とする分子変換反応が近年開発されている。例えば,市川らは,トリフルオロメチル基を有するアルケンとアルキンから,2 度のβ-フッ素脱離を経てフッ素化されたシクロペンタジエンを与える反応を報告している2)
 筆者らは最近,環状ニッケルフルオロアルキル錯体のα-フッ素脱離を鍵過程とする変換反応の機構を精査する過程で,アミンの添加によってα-フッ素脱離が促進される興味深い知見を見いだした3)。すなわち,0 価ニッケル存在下,四フッ化エチレンとスチレンとの酸化的環化によって生じる環状フルオロアルキル錯体にジベンジルアミンを作用させると,α-フッ素脱離とこれに続く炭素-炭素結合形成反応が室温で進行し,フッ素化されたシクロブチル基を有する二量体錯体が得られることを明らかにした。本反応は化学量論量のニッケルを必要とするが,スチレン類とフッ素化学産業の基幹原料である四フッ化エチレンから多様な含フッ素有機化合物への変換を可能にする。今後,このようなフッ素脱離を鍵過程とする分子変換反応の更なる展開が大いに期待される。

chem70-8-DT_f01.jpg1) T. Braun et al., Chem. Rev. 2015, 115, 931 and references cited therein.
2) J. Ichikawa et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2014, 53, 7564.
3) M. Ohashi, S. Ogoshi et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2017, 56, 2435.

大橋理人 大阪大学大学院工学研究科