材料表面の微細構造は,表面機能の発現において極めて重要である。微細構造表面を構築する方法の1 つに,リンクル(しわ)形成がある。例えば,シリコーンゴム表面に金属の化学蒸着によって硬い薄層(スキン層)を形成し,そこに歪みをかけると,スキン層と内部の硬さの違いから,表面に微細なリンクルが現れ
る1)。これまでに同様なドライプロセスを用いて,数多くのリンクル表面の創製が報告されてきたが,生体高分子をベースとしたリンクル表面を,従来のドライプロセスで創製することは不可能である。
筆者らは,強靭な樹木細胞壁の分子デザインとその構成成分であるリグニンの生合成プロセスを模倣することで,天然の資源とプロセスのみからリンクル表面を調製する新しい手法の開発に成功した2, 3)。この手法では,リグニンの生合成プロセスを模倣した西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼ(HRP)によるフェノール酸の酸化重合をキトサンフィルム表面で行うことで,樹木細胞壁の分子デザインを模倣したスキン層が構築される。そのフィルムを自然乾燥すると,スキン層と内部の収縮率の違いから,表面に微細なリンクルが発現する。このリンクルは,フィルムの製造条件を変えることである程度サイズの制御が可能であり,乾燥時に外部応力を加えることでリンクルの配向制御もできる。
今後,得られたリンクル表面材料をベースに細胞培養基材や生体接着材料のようなバイオマテリアルの開発が期待される。
1) J. Genzer et al., Soft Matter. 2006, 2, 310.
2) H. Izawa et al., ChemSusChem. 2015, 8, 3892.
3) H. Izawa et al., Langmuir 2016, 32, 12799.
井澤浩則 鳥取大学大学院工学研究科