日本化学会

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電解反応を使ったC-H 結合の官能基化

C-H Functionalization Using Electrochemical Reactions

 この20年以上にわたりC-H 結合を直接変換する触媒的官能基導入反応が盛んに研究されている1)。これらの反応は,事前に官能基の導入が不要であることから,原子効率が高く,また反応工程を削減できるなど,環境低負荷でグリーンな反応である。特に,C-H 結合の多重結合への付加反応は原子効率が100%の反応であり元素を無駄にしない合成手法である。一方,C-H 結合の官能基化が置換反応の形式で進行する場合には,反応後に副生成物を与えるため,改善が必要な点も残されている。
 有機電解反応は,酸化還元過程を電子の授受のみで行えるため,化学量論量の反応剤の使用が不要になるなど,クリーンな合成手法として近年注目を集めている。これまでに,遷移金属触媒によるC-H結合切断と陽極酸化を組み合わせた芳香環のアルケニル化やハロゲン化,酸素官能基導入などが効率的に達成できるようになっている2)。これら反応の副生成物は陰極で発生する水素だけであり,原子効率が高い手法である。さらに最近,電解酸化だけを利用した芳香環のクロスカップリング反応3)や芳香環へのアミノ基の導入反応4),複雑な構造をもつ脂肪族化合物への位置選択的酸素官能基導入反応5)も達成されており,化学廃棄物の副生を抑制したグリーンかつクリーンな有機合成手法としての利用が行われるようになっている。

chem70-9-DT_f02.jpg1) J. He et al., Chem. Rev., DOI: 10.1021/acs. chemrev.6b00622.
2) K.-J. Jiao et al., Tetrahedron Lett. 2017, 58, 797.
3) B. Riehl et al., Synthesis 2017, 49, 252.
4) T. Morofuji et al., J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 5000.
5) E. J. Horn et al., Nature 2016, 533, 77.

垣内史敏 慶應義塾大学理工学部