日本化学会

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微生物代謝機構の多様性

Diversity of Microbial Metabolism

 近年のゲノム情報の加速度的な蓄積の結果,今まで普遍的と考えられてきた酵素・代謝経路を持たない微生物の存在が確認されている。これは第3 の生物ドメインであるアーキアにおいて顕著である。筆者らはこのような「変わり者」の生物に着目することで,これまで見逃されてきた酵素・代謝経路の同定を進めて
いる。
 例えばアミノ酸代謝では,Ser からCysへの変換は通常はO-acetylserine を介して行われるが,超好熱性アーキアの一部ではO-phosphoserine を介して進行する1)
本経路の鍵酵素であるADP 依存型serinekinase は,遊離Ser をリン酸化する酵素であるが,本活性をもった酵素は意外なことにこれまで報告されていなかった。そのため,本酵素は新規なkinase family に属する可能性が高い。
 ヌクレオシド(Nuc)分解では,通常はNucより生じるribose 1-phosphate(R1P)がribose 5-phosphate へと変換された後に,pentose phosphate pathwayを経由して中央糖代謝経路に接続する。しかし一部のアーキアでは,R1P のリン酸化によりribose 1,5-bisphosphate が生成し,異性化によってribulose 1,5-bisphosphate(RuBP)が生成した後に,Rubisco の作用によりRuBP,CO2,H2Oが2分子の3-phosphoglycericacid に変換され,中央糖代謝と合流する2)
 ゲノム情報の蓄積が進んだことにより,それを基盤とした生命システムの多様性を解明する研究はさらに加速するであろう。今後もこのようなアプローチで
研究を進めることで,生命機能の多様なメカニズム解明に貢献していきたい。

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1) Y. Makino et al., Nat. Comm. 2016, 7,13446.
2) R. Aono et al., Nat. Chem. Biol. 2015, 11,355.

跡見晴幸 京都大学大学院工学研究科合成・生物化学専攻