日本化学会

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アンモニア合成用固体触媒の新潮流

New Trends in Ammonia Synthesis Catalysts

 アンモニアは化学肥料の原料として重要な化学物質であり,近年は再生可能エネルギーの貯蔵・輸送を担うエネルギーキャリアとしても注目されている。現在主流のアンモニア合成プロセス(ハーバー・ボッシュ法)は約100 年前に実用化されたものであり,非常に高い温度と圧力下(>450℃,>200 気圧)でFe 系触媒が用いられ,そのプロセスや触媒は確立されている。しかし,使用条件や使用目的,規模によっては,Fe 系以外の触媒の使用も考えられ,高活性なRu 触媒を中心に最近アンモニア合成触媒の開発が盛んになってきた。
 より温和な条件(≦400℃,50~100気圧)で高いアンモニア合成活性を示す触媒の開発が進められている。一般にRu 系触媒はFe 系触媒よりも低温で高い活性を示すが,反応物である水素がRu粒子表面に強く吸着して窒素の活性化を阻害するという課題があった。しかし,最近の研究によって解決の糸口が見いだされつつある。細野らはエレクトライド1)あるいはアミド化合物2)を担体に用いると,水素による反応阻害がなくなることを示した。また図に示すように,永岡らは強塩基性の希土類酸化物であるPr2O3にRu を担持した触媒を報告している3)。この触媒では,Ru が結晶性の低いナノレイヤーの状態でPr2O3 に担持されており,水素被毒が小さく,10 気圧程度の加圧によって反応速度が大きく向上するという知見が得られている。
 これら新世代のRu 触媒についての学問の深化と改良によって,日本発のアンモニア合成プロセスの実用化が期待される。

chem70-10-DT_f01.jpgPublished by the Royal Society of Chemistry 3)


1) M. Kitano et al., Nat. Chem. 2012, 4, 934.
2) Y. Inoue et al., ACS Catal. 2014, 4, 674.
3) K. Sato et al., Chem. Sci. 2017, 8, 674.

江口浩一 京都大学大学院工学研究科