CdS やCdSe などのII-VI 族半導体量子ドットは,チューナブルな物性を活かして発光素子や生体分子マーカー等への利用が進んでいる。しかし高毒性のCd を含むために,広範囲な実用用途には向かない。現在,Cdを複数の低毒性金属元素に置き換えて低毒性化する研究が活発に行われている 1~4)。例えば,Cd2+をCu+とIn3+で置き換えることで,可視光発光するCuInSM2 量子ドットが作製でき,さらにZnS と固溶体形成させると,発光が多色化できる 2)。筆者らは,ZnS-AgInS2 固溶体(ZAIS)からなる量子ドットを作製すると,高い発光量子収率(最大で約80%)を示し,粒子組成とサイズにより発光波長を自在に制御できることを報告した3)。また,合成条件を制御することにより,ロッドなど形状異方性をもつ粒子も作製でた。
これらI-III-VI 族半導体をベースとする低毒性量子ドットの唯一で最大の欠点は,その発光が結晶欠陥に由来するために,非常に広い発光ピーク(FWHM>300 meV)を示すことである。しかし最近,Klimovらはコア/シェル構造CuInS2/ZnS 量子ドットの単一粒子分光測定を行い,単一粒子では非常に狭い発光ピーク(FWHM:ca.60 meV)となることを報告した4)。したがって,多元量子ドットでも原理的に発光ピークの先鋭化は可能であり,粒子間の組成・サイズのばらつきを低減できる合成法を開発すれば,近い将来に実現されるであろう。
1) T. Teranishi et al., J. Phys. Chem. C 2015,119, 11100.
2) H. Maeda et al., Chem. Mater. 2006, 18,3330.
3) T. Torimoto et al., J. Phys. Chem. C 2015,119, 24740.
4) V. I. Klimov et al., Nano Lett., 2017, 17,1787.
鳥本 司 名古屋大学大学院工学研究科