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赤外分光法でパーフルオロアルキル化合物の本質を描き出す

Infrared Spectroscopy Reveals the Nature of Perfluoroalkyl Compounds

 アルキル基の水素原子をすべてフッ素に置換したパーフルオロアルキル(Rf)基を含む化合物は,撥水撥油性や低誘電率など際立ったバルク物性を示す。撥水という言葉のせいか,Rf鎖同士の分子間相互作用がいわゆる"疎水性相互作用"であるという思い込みに陥りやすい1)。実際,Rf鎖間の相互作用はアルキル鎖同様に"分散力"によるものと思われがちで,これはRf化合物の物性理解の妨げの一要因である。
 C-F 結合には大きな双極子があり,Rf基間の相互作用は,双極子-双極子相互作用に支配される2)。また,Rf基はねじれた骨格をもつため,方向の異なる双極子アレーが生じ3),バルクなスケールで平均化すると双極子は見えなくなり,これがRf化合物特有のバルク物性の発現に深く関わる1, 2)。すなわち,1 分子と分子集合系が極端に異なる物性を示す1, 3)
 さらに,F 原子の質量がC 原子よりも大きいため,アルキル基の分子振動の概念がまったく通用しなくなる点も重要で
ある4)。すなわち,炭素骨格の連成振動が赤外分光の理解に欠かせず,基準振動が官能基に局在しないという特徴を示す。例えば,CF3対称伸縮振動(νs(CF3))の遷移モーメントはRf 鎖軸に平行で,分子配向の解析に極めて有効に使える。
 CF2対称伸縮振動(νs(CF2))のバンド位置がRf鎖長によって大きくシフトするのもアルキル鎖にはない特徴である3)。振動分光法の見直しを通じて,赤外分光法とフッ素化学の両方の科学に新たな進展を与えることができる。

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1) T. Hasegawa, Chem. Record 2017, DOI: 10.1002/tcr.201700018.
2) T. Hasegawa, Chem. Phys. Lett. 2015, 627, 64.
3) T. Hasegawa et al., ChemPlusChem 2014, 79, 1421.
4) T. Hasegawa et al., Chem. Lett. 2015, 44, 834.

長谷川 健 京都大学化学研究所