MeOH はC1 化学における基幹物質であるばかりでなく,二次エネルギーとしての水素の貯蔵体として注目されている1)。また,MeOH の脱水素化により得られるHCHOはポリアセタール(POM)樹脂の原料となるが,POM に必要な無水HCHO の製造においては脱水プロセスに多くのエネルギーが必要とされる。いずれにせよ含水および無水MeOH の脱水素プロセスには高温と貴金属触媒が必要であり,より温和な条件で脱水素化を駆動する安価な触媒が望まれている。
筆者らは,光に応答しMeOH の脱水素化を駆動するレドックス活性有機分子であるアミノフェノール(apH2)およびその錯体を見いだした2)。apH2,apH-およびその鉄錯体[Fe(apH)2(MeOH)2]は室温における289nm の光照射によりそれぞれ2.9,3.7,4.8% の光脱水素量子収率で無水MeOH からH2とHCHO を与えた。CD3OH を用いた実験によりHDが選択的に発生したことからMeOH からの脱水素が証明された。またt-BuSHを用いた光照射実験によりジスルフィドが生成したことから水素ラジカル機構の存在が示唆された。以上の結果から,光照射により,apH 内のN-H 結合を活性化する励起状態へと緩和した後,水素ラジカルが発生し,これがMeOH と反応することで脱水素が進行すると考えられる(図)。
無水MeOH の光脱水素化は1980 年代に斎藤らにより貴金属光触媒を用いて研究されていたが3),その後30 年の間,触媒活性を向上させる報告はなかった。一方,今回見いだされた系は,レドックス活性有機骨格の構造と金属の種類を多様に設計できるため,触媒の耐久性等の向上により,より優れた脱水素化光触媒が開発されることが期待される。
1) G. A. Olah et al., J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 12881.
2) M. Wakizaka et al., Nat. Commun. 2016, 7, 12333.
3) Y. Saito et al., J. Mol. Catal. 1985, 31, 301.
張 浩徹・松本 剛 中央大学理工学部