グラフェンは炭素原子厚の極薄の二次元シート構造を有しており,グラフェンによって系を2つに分けることができる。例えば,グラフェンを挟んで一方を真空に,他方に気体を導入すると,グラフェンによってその2つの系は分けられた状態となる。グラフェンに細孔をあけると,気体分子は出入りが可能となり,2つの系は等しくなる1)。ここで,分子は炭素原子厚のグラフェンのみで分けられており,グラフェン細孔に分子を制御する機能を設けることで,ナノスケールの分子制御が実現する。気体分子の透過性は極めて高く,かつ選択性を有するグラフェン細孔体を創製することやイオンの選択的透過を制御できるグラフェン細孔体創製の可能性が示唆されている2, 3)。
筆者らのグループではグラフェン類の細孔構造を制御することにより,分子挙動を高度に制御することを目的とした研究を行ってきた。グラフェン細孔をピコメートルレベルで制御することやグラフェンとの相互作用の違いを利用してCH4/CO2やH2/CO2分子の高効率の分離がなされた4, 5)。また,グラフェン細孔中での水素結合形成阻害による水分子の連続的輸送6)や量子ゆらぎを利用した極小グラフェン細孔による量子ヘリウムの輸送制御がグラフェン細孔によってなされた7)。
1) L. Wang et al., Nat. Nanotechnol. 2015, 10, 785.
2) K. Celebi et al., Science 2014, 344, 289.
3) K. Sint et al., J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 16448.
4) T. Ohba, ACS Nano 2014, 8, 11313.
5) K. Shimizu et al., Phys. Chem. Chem. Phys. 2017, 19, 18201.
6) T. Ohba, J. Phys. Chem. C 2016, 120, 8855.
7) T. Ohba, Sci. Rep. 2016, 6, 28992.
大場友則 千葉大学大学院理学研究院