近年,可逆な光反応を示す有機結晶が光反応に伴い可逆な形状変化を示すことに注目されている1, 2)。結晶形状変化は収縮・伸長,屈曲,ねじれなどであり,その多くは屈曲現象である。これらの光誘起結晶形状変形の際に,相転移が起これば,これまでにない特異な形状変形が期待できる。熱的相転移には,昇温時に融解を伴う相転移,昇温時のみ結晶︲結晶相転移を示す不可逆な相転移,昇温時と冷却時の両方で結晶︲結晶相転移を示す可逆的相転移などがある。
筆者らは様々なジアリールエテン結晶の光誘起形状変形を研究する過程において,ある種のジアリールエテン結晶が紫外光照射の際に可逆な相転移を起こすことを見いだした3)。紫外光照射により屈曲し,その際に熱的相転移により結晶が伸長する。結果的に,紫外光照射のみで屈曲の往復運動を行い,可視光照射で再び屈曲の往復運動が観測された。フォトクロミック反応により相転移温度が低下し,複雑な運動となっている。この熱的相転移は可逆過程であり,紫外光照射前では昇温過程において38℃で伸長し,冷却過程では25℃で収縮する。紫外光照射後には相転移温度が低下し室温以下になるため,紫外光照射の際に熱的相転移を伴う光誘起結晶形状変形が観測された。このような材料は光によって相転移温度を制御可能な新しい材料として更なる展開が期待される。
1) M. Irie et al., Chem. Rev. 2014, 114, 12174.
2) P. Naumov et al., Chem. Rev. 2015, 115,12440.
3) D. Kitagawa et al., Chem. Mater. 2017, 29,7524.
小畠誠也 大阪市立大学大学院工学研究科