1940 年後半にWallace H. Coulter によって発明されたコールター原理は,電解質溶液中の細孔に粒子が通過する際に発生する電気抵抗(インピーダンス)の変化を抵抗パルスとしてセンシングする方法であり,粒子の正確な体積測定法として様々な分野において幅広く用いられている。最近では,細孔を数十nm にまで小さく加工することで,単なるイオン電流ではなく,発生するトンネル電流を測定することで分子構造を明らかにする方法1)や,細孔をマイクロ流体デバイスの中に組み込んで連続的に測定し,マルチパラメータを得る方法 2)などが開発されている。しかしながら本原理では,検出対象の粒子は細孔体積の1% 以上の体積を有する必要があるため,実質的に1 つの細孔で測定可能な粒子径は限られ,微生物のような直径が数百nm から十数μm といったバラエティに富んだ対象物を一度に測定することは困難であった。このため,バイオ分析への適用には多くの改善が必要である。
筆者らは,近年問題となっているウイルスや細菌による感染症の早期診断を目的に,マイクロ流路中の検出部となる細孔部分に新たにブリッジ回路を組み込むことでジュール熱に起因する熱ノイズをpA レベルまで低減し,検出可能な粒子体積下限を細孔体積の0.01% にまで引き下げることに成功した3)。本手法は,非標識で細菌の粒径・形状・ゼータ電位を一度の測定で高精度に取得できることから,感染症の早期診断はもちろん,食品や環境分野など,様々な分野への貢献が期待できる。
1) M. Di Ventra, M. Taniguchi, Nature Nanotech.2016, 11, 117.
2) Z. D. Harms et al., Anal. Chem. 2014, 87,699.
3) H. Yasaki et al., J. Am. Chem. Soc. 2017,139, 14137.
加地範匡 名古屋大学大学院工学研究科