日本化学会

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三次元構造に着目したペプチドミメティクスの創製

Development of Peptide Mimetics Focused on the Tertiary Structure

 創薬研究の指標である"Lipinski's Role of ve(Ro5)"から外れた中分子化合物群(分子量500~3000)が"Beyond Rule of ve(bRo5)"という新規ケミカルスペースとして期待されている。中でも環状ペプチド類は多彩な三次元構造を取ることで抗体に匹敵する標的親和性が期待でき,また,代謝安定性の向上や膜透過性を有するなど,次世代新薬開発の候補化合物群として期待されている1)。その生物活性発現に関わる構造を抽出して簡略化させるミメティクス合成は,ペプチド構造の改変によりさらなる代謝安定性の向上が期待されることから,創薬研究の新たな手法として注目されている。筆者らはその一例として,強力な細胞毒性を示すアプラトキシン類のミメティクス合成に成功しているM2)。二次元NMR(ROESY)の相関情報を利用したMacromodel解析によりアプラトキシンA の最安定配座を求め,その三次元構造を模倣する置換基を探索した結果,毒性発現および非特異的吸着の要因と考えられるチアゾリンおよびα, β -不飽和アミド(moCys)を4-ピペリジンカルボン酸に置換できることを見いだした。また,チロシン残基をビフェニルアラニン残基としたアプラトキシンM16 が天然物と同等の細胞毒性(HCT-116:IC501.1nM)を示すことも明らかにした。このように環状ペプチドの三次元構造を再現することで,親化合物と同等の生物活性を示す誘導体の創製が可能である。本手法がミメティクス合成の1 つの指針として利用されることを期待したい。

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1) F. Giordanetto, J. Kihlberg, J. Med. Chem. 2014, 57, 278.
2) T. Doi et al., J. Med. Chem. 2017, 60, 6751.
吉田将人 東北大学大学院薬学研究科