主鎖に沿って2 本以上の化学結合を有するラダーポリマーは,多重の化学結合に由来する優れた熱安定性・力学特性を示すと期待されている。これまでに合成されてきたラダーポリマーはいずれも極めて剛直な主鎖構造を持つものばかりであるが 1, 2),もし柔軟なラダーポリマーが合成できればこれらの性質に加えて制限された二次元的なコンフォメーション挙動に基づく特異な物性発現が期待できる。
McKeown らのグループは,アニリン類とホルムアルデヒド間でのTröger'sbase 形成反応を重合反応に利用し,剛直性ラダーポリマーが高分子量で得られることを報告した2, 3)。筆者はこの重合方法で得られるラダーポリマーのTröger's base 骨格のアミナール部位を,ジメチル硫酸とNaOH により開裂させることにより,環反転可能な1,5︲ジアザシクロオクタン骨格へと変換し,柔軟性ラダーポリマーを合成する手法を見いだした4)。この変換反応に伴いポリマー中のTröger's base 部位の立体的な非対称性が解消され,主鎖面に沿った構造等価性(対称性)も獲得できる。一連の反応は貧溶媒を反応溶媒として用いても転化率100% で進行し,自立膜の状態でも反応前の形状を保ったまま目的のポリマーが得られる。また,反応後に生成する二級アミン部位に種々の官能基を導入することも可能である。今後,この柔軟性ラダーポリマーの物性研究や,構造対称性を活かした新規ラダーポリマー合成の進展が期待できる。
1) J. Lee et al., Chem. Sci. 2017, 8, 2503.
2) N. B. McKeown, Sci. China Chem. 2017, 60, 1023.
3) M. Carta et al., Science 2013, 339, 303.
4) F. Ishiwari et al., ACS Macro Lett. 2017, 6, 775.
石割文崇 東京工業大学科学技術創成研究院