日本化学会

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機械的刺激による発光キラル結晶のラセミ化とそれに伴う発光挙動の変化

Mechanical-stress-induced Racemization of Chiral Crystal and Their Luminescence Property Change

 マクロな機械的刺激によって固体の蛍光やリン光などの発光特性が変化する現象は,発光性メカノ(ピエゾ)クロミズムと称され,以前から散発的な報告がなされていたが,2007 年の務台・荒木らの水素結合をもつピレン化合物の報告1),2008 年の伊藤・澤村らの金イソシアニド錯体の報告2)をきっかけとして多くの注目を集めるようになった。筆者らは発光性メカノ(ピエゾ)クロミズムを示す材料の合理的設計を目指して検討を行い,最近,発光性分子に動的キラリティを導入することで,機械的刺激による結晶構造のラセミ化と,それに伴う発光性メカノクロミズムが可能になることを発見した3)。ビフェニル骨格を含む化合物1は,合成直後は粘稠な液体であるが,機械的刺激を加えることで結晶化が促進され,発光特性が異なるキラル(non-centrosymmetric)結晶1ch またはアキラル(centrosymmetric)結晶1acとなる。1chはすりつぶすなどの機械的刺激によって結晶状態のまま"ラセミ化"し,発光性の変化を伴って1acに変化する。この現象は,機械的刺激により準安定なキラル結晶から熱力学的に安定ラセミ結晶へ変化することが駆動力になっていると考えられる。本結果は動的発光性分子の新しい設計指針を示すものである。

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1) Y. Sagara et al., J. Am. Chem. Soc. 2007,129, 1520.
2) H. Ito et al., J. Am. Chem. Soc. 2008, 130,10044.
3) M. Jin et al., J. Am. Chem. Soc. 2017, 139,7452.

伊藤 肇 北海道大学大学院工学研究院