日本化学会

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酵素タンパク質複合体形成による効率的な細胞内連続化学反応

Effective Consecutive Chemical Reaction by Enzyme Supercomplex

 細胞内には,多数のタンパク質を含む生体分子が存在しており,その濃度は~300mg/mL にものぼるといわれている。細胞内での化学反応は,このような多数の夾雑物が存在する中,高効率,高選択的に行われる。筆者らは,細胞内での一連の化学反応が効率良く行われる仕組みを理解するために,微生物が嫌気下で生きていくために行う脱窒という連続化学反応過程に注目した。脱窒は,地球上の窒素循環の一翼を担っており,硝酸NO3→ 亜硝酸NO 2→ 一酸化窒素NO→亜酸化窒素N2O→窒素N2といった連続した4 段階の還元反応からなる。ここで,脱窒の中間生成物であるNO は細胞毒性が高いので,細胞内には,NOを細胞環境に拡散させずに無毒化する巧妙な仕組みが存在すると考えられる。筆者らは,その仕組みとして,NO を生成する亜硝酸還元酵素(NiR)とNO を分解するNO還元酵素(NOR)が複合体を形成することで,NiR が生成したNO をNOR が直ちに分解していることを見いだした(図)1)。このような酵素タンパク質複合体形成による効率的な生理反応機構は,呼吸やクエン酸回路などの生理反応においても示唆されている2, 3)。酵素タンパク質複合体形成による効率的な細胞内連続化学反応という概念は,様々な生理反応に適用可能であり,細胞内での化学反応機構の分子論的な理解の一助となると期待される。


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1) E. Terasaka et al., Proc. Natl. Acad. Sci.USA 2017, 114, 9888.
2) J. Gu et al., Nature 2016, 537, 639.
3) F. Wu, S. Minter, Angew. Chem. Int. Ed.2015, 54, 1851.

當舎武彦 理化学研究所放射光科学総合研究センター