金属クラスターは大きな比表面積をもつため,有機配位子により電子構造が摂動を受け触媒特性が変化する1)。しかしながら,金属クラスターの触媒活性に対する配位子効果に関してはほとんど研究例がない。2016 年にJin らは,llmann反応において芳香族チオール保護金クラスターが脂肪族チオール保護Au クラスターより高い触媒活性と選択性を示すことを明らかにした2)。また佃らは,4-ヒドロキシベンジルアルコールの空気酸化反応において,ポリビニルピロリドン保護Au クラスターの触媒活性が,ポリビニルピロリドンからAu コアへの電子移動によって促進されることを見いだした3)。すなわち,一般に金属錯体触媒で見られる配位子効果の概念は,金属クラスターにも当てはまると言える。
最近,筆者らはポルフィリン誘導体をAu クラスターに平面配位させると,両者の電子構造に劇的な摂動が起こることを明らかにしている4)。そこで今回,電気化学的水素発生反応(HER)において,Au クラスターの触媒特性に及ぼすポルフィリン誘導体の配位子効果を検討した。その結果,ポルフィリン誘導体保護Au クラスターはフェニルエタンチオール保護Au クラスターと比較し,460% 高い電流密度(@-0.4 V vs. RHE)および負の過電圧シフト(70mV)を示した5)。このクラスター領域における劇的な触媒増強は,ポルフィリンからAu コアへの電荷移動に起因しており,この配位子効果は金属クラスターの触媒活性を増強するための新規な戦略を提供するものと期待される。
1) R. Guo et al., J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 12140.
2) G. Li et al., ACS Nano 2016, 10, 7998.
3) H. Tsunoyama et al., J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 7086.
4) 例えばM. Sakamoto et al., J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 816.
5) D. Eguchi et al., Chem. Sci. 2018, 9, 261.
寺西利治 京都大学化学研究所