有機電解反応は,電極と対象となる化学物質との間の電子の授受により進行し,電子を試薬とするクリーンで高効率な物質変換反応である1)。直接基質の酸化還元を行う直接電解反応と,電子移動速度の遅い基質の電子授受を媒介するメディエーターを用いた間接電解反応に大別される。また触媒を電気化学的に活性化し,目的とする反応に用いる手法も報告されており,温和で簡便な物質変換手法として,様々なファインケミカル合成に応用されている2)。ビシナルジアミンは,医薬品や天然物合成の重要中間体であり,また金属錯体における配位子合成の原料としても多用されている。その合成スキームとして,アルケンを原料とするジアジド経由法は,対応するジアミンに容易に還元できるため魅力的な方法である。しかし,強力な酸化剤の使用や実験手法の煩雑さなど課題が残されていた。最近,電解反応と金属塩触媒を併用
した簡便な手法が報告された3)。臭化マンガンとナトリウムアジド共存下でアルケン類を電解酸化すると,ビシナルジアジドが約70~90%の収率で得られた。電解酸化により生成したMnIII-N3種が活性種として考えられており,臭化マンガン不在下ではジアジドはほとんど得られず,電解反応と金属塩触媒のシナジー効果が見事に発現している。得られたジアジドは容易に対応するビシナルジアミンに還元することができるため,本手法は様々なジアミンの合成に応用することができる。
1) P. S. Baran et al., Chem. Rev. 2017, 117, 13230.
2) H. Shimakoshi et al., Current Opinion in Electrochemistry 2018, 8, 24.
3) S. Lin et al., Science 2017, 357, 575.
嶌越 恒 九州大学大学院工学研究院