日本化学会

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高次三重項状態を利用した

Novel Emitting Mechanism of OLED Using Higher Triplet States

 有機EL 素子はすでにディスプレイ等に応用され実用化段階にあるが,高効率で長寿命な深青色発光分子の開発は重要な課題である。この課題解決には,励起子利用効率の向上がカギとなる。この課題に対して,熱活性型遅延蛍光(TADF)などの現象が利用されてきた。TADF 機構では100% の励起子利用効率が実現でき,その設計指針は,HOMO とLUMOの分布を分子内で分離した電荷移動(CT)型励起状態を持つ分子が候補となるとされている1)。しかし,CT 型励起状態ではStokes シフトが大きく深青色発光の実現が困難であるとともに発光スペクトルも幅広となり色純度の点でも問題となる。
 山形大学のFu(現理研)らのグループは,励起子利用効率100% の深青色発光するビスアントラセン誘導体を報告している2)。理論計算によるS1とT1のエネルギー差は,熱励起可能と考えるには大きくTADF機構によるものとは考えられない。
 最近筆者らは,この系で観測された高い励起子利用効率がT1よりもエネルギーの高い高次三重項状態Tnから一重項状態S m への逆系間交差によるものであることを振電相互作用密度理論により明らかにした3)。この機構では,SmとTnのエネルギー差は負になることもあり,遅延蛍光は必ずしも観測されない点でTADF 機構とは異なることから,この新規なEL 機構を高次三重項経由蛍光(FvHT)機構と名付けた。FvHT 分子の候補となる分子は励起電子構造に擬縮退を有する分子であり,CT 型でない局所励起状態を持つ分子も候補となり,深青色EL 発光が期待できる。

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1) A. Endo et al., Adv. Mater. 2009, 21, 4802.
2) J.-Y. Hu et al., Adv. Funct. Mater. 2014, 24, 2064.
3) T. Sato et al., Sci. Rep. 2017, 7, 4820.

佐藤 徹 京都大学福井謙一記念研究センター