日本化学会

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天然有機化合物の立体化学の解析における最近の進展

Recent Advances in the Stereochemical Analysis of Natural Products

 天然有機化合物(天然物)の構造決定において,NMR による構造解析は最も汎用性のある手法であり,改良Mosher法,JBCA 法,NMRデータベースなど立体化学を決定するための有用な手法が開発されてきた。しかしながら,amphidinol3(AM3)や,その類縁体であるkarlotoxin2(KmTx2)など,鎖状部分に多くの不斉中心を有するためNMR による構造解析が困難なものが存在する。
 一方で,計算科学的な手法による立体化学の解析法が近年進歩している。Goodman らは, 量子化学計算(DFTGIAO)により化学シフトおよび結合定数を求め,統計的な手法(DP4)を組合せることによって立体化学を推定する方法を開発した1)
 Hamann らは,KmTx2 の構造に関してDP4 による検証を行っており,提出構造を支持しているが2),最近筆者らは,合成化学的なアプローチによるAM3 の構造改訂(C32~C38 部分)を行った3)。最終的には全合成による構造確認が必要であると考えられる。
 また,最近ではコンピュータ支援構造解析(CASE)4)や,ビッグデータ,AI を利用した天然物の構造決定の誤りを見いだす方法(ANN)などが開発されており5),今後の更なる進展が期待される。


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1) S. G. Smith et al., J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 12946.
2) A. L. Waters et al., Angew. Chem., Int. Ed. 2015, 54, 15705.
3) Y. Wakamiya et al., Angew. Chem., Int. Ed. 2018, 57, 6060.
4) M. Elyashberg et al., Nat. Prod. Rep. 2010, 27, 1296.
5) M. M. Zanardi et al., J. Org. Chem. 2015, 80, 9371.

海老根真琴・大石 徹 九州大学大学院理学研究院