日本化学会

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ターアリーレンの増幅異性化反応

Amplified Isomerization Reaction of Triangle Terarylenes

ターアリーレンなどのヘキサトリエン骨格を有するフォトクロミック分子はシクロヘキサジエン型閉環体へと光異性化を示す1)。一部の分子は閉環体を酸化して形成されるカチオンラジカル経由で高効率の連鎖開環反応が進行する 2~4)。閉環体を酸化することによって形成される閉環体カチオンラジカル状態は,より安定な開環体のカチオンラジカルへと自発的に異性化する(図1)。開環体のカチオンラジカルは酸化力が強く,ほかの閉環体分子を酸化し,中性の開環体と新たに閉環体カチオンラジカルを再生する。この連鎖サイクルのため酸化当量を大幅に超える連鎖開環反応が可能となる。近年,筆者らは拡張したπ 共役電子系を有するターアリーレンにおいて酸化剤当量に対して1000 倍以上の増幅連鎖反応系を見いだした 5, 6)。さらに最近,金属表面上に吸着した分子がSTM からの電圧印可に伴って二次元組織構造を形成する現象も見いだした(図2)7)。電界とフォトクロミック分子との相関現象には多くの未踏領域が介在しているものと期待している。

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図1 ジアリールエテンおよびターアリーレンの連鎖開環反応のメカニズム 5)

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図2 ターアリーレンのSTM 誘起組織構造形成 7)


1) M. Irie, T. Fukaminato, K. Matsuda, S. Kobatake, Chem. Rev. 2014, 114, 12277.
2) T. Koshido, T. Kawai, K. Yoshino, J. Phys. Chem. 1995, 99, 6110.
3) A. Peters, N. Branda, J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 3403.
4) Y. Moriyama, K. Matsuda, M. Irie, Org. Lett. 2005, 7, 3315.
5) T. Nakashima, Y. Kajiki, S. Fukumoto, M. Taguchi, S. Nagao, S. Hirota, T. Kawai, J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 19877.
6) J. P. Calupitan, T. Nakashima, Y. Hashimoto, T. Kawai, Chem. Eur. J. 2016, 22, 10002.
7) J. P. Calupitan, O. Galangau, O. Guillermet, R. Coratger, G. Rapenne, T. Kawai, J. Phys. Chem. C. 2017, 121, 25384.

河合 壯 奈良先端科学技術大学院大学