日本化学会

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近赤外光を駆動力とする光誘起電子移動反応

Photoinduced Electron Transfer Reaction Driven by Near-infrared Light

 地上に降り注ぐ太陽光エネルギーのうち,近赤外領域の光が占める割合は40%を超える。太陽光の高効率利用が求められる中,近赤外光のエネルギーを化学エネルギーへと変換する光誘起光電子移動系の開発に注目が集まっている。
 最近,ルテニウム三核錯体を近赤外光増感剤として用いた光水素発生反応系が報告された1)。この系では,増感色素に多核構造を採用し,近赤外光の吸収強度の向上に成功している。また,多核錯体の大きな正電荷(6+)を利用し,犠牲還元剤であるアスコルビン酸アニオンとイオンペアを形成させることで,効率的な静的消光を達成した。
 一方,歪んだフタロシアニン化合物を増感色素として用いることで,動的消光過程を経由して進行する近赤外光誘起光電子移動反応についても,最近,これが初めて達成された2)。ここで用いている近赤外増感色素DPc-Clは,歪んだフタロシアニン骨格に由来する強い近赤外吸収能と長寿命の励起状態を有している。また,クロロ基によるポテンシャルチューニングによって,非常に高い光安定性を実現した。DPc-Clと犠牲還元剤であるBIHの混合溶液に750nm以上の近赤外光を照射すると光誘起電子移動が進行し,DPc-Clのアニオンラジカルが生成する。動的消光を経由する光反応系は系の自由度が高く,様々な化学反応への応用が可能であるため,今後の展開が期待される。

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1) Y. Tsuji et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2018, 57, 208.
2) T. Enomoto et al., J. Phys. Chem. C, 2018, 122, 11282.

榎本孝文・正岡重行 分子科学研究所生命・錯体分子科学研究領域