光刺激によって蛍光のON ↔ OFF が可能な蛍光スイッチング分子は,超解像蛍光イメージングにおいて中心的な役割を担っており,近年非常に活発な研究が展開されている。
一般に,蛍光スイッチには,OFF 状態とON状態それぞれの吸収帯に対応する2 波長の光源を準備する必要がある。しかし筆者らは,蛍光スイッチ分子であるジアリールエテン誘導体(DE,図(a))1)の開環体(蛍光OFF)の吸収帯の裾にあるホットバンド(Urbach tail)と閉環体(蛍光ON)の吸収ピークを可視光で同時に励起することで,蛍光ON ↔ OFF が実現できることを実験的に示した2, 3)。
図(b)は,閉環体DE を含む高分子薄膜をCW 532-nm 光で励起したときの単一分子蛍光イメージングの結果である。通常は無視されるUrbach tail によるわずかな吸収によって,少数のDE 開環体が閉環体へ異性化し,蛍光スポットとして検出される。閉環体は可視光励起下で蛍光を発すると同時に開環体への逆異性化を示すため,光照射後しばらくすると光定常状態となり,発光分子数はほぼ一定になる(図(b)中,右)。またこの手法では,可視光励起のためUV 光に比べて光褪色も抑えられ,光照射開始から3 時間後でも蛍光観測可能であった(図(b)右)。蛍光スイッチの周期は励起波長と強度,異性化量子収率に依存するため,これらを最適化することで,一分子追跡やPALM(Photoactivation Localization
Microscopy)など,目的に応じた蛍光ON ↔ OFF が実現可能である。
1) K. Uno et al., J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 13558.
2) Y. Arai et al., Chem. Commun. 2017, 53, 4066.
3) R. Kashihara et al., J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 16498.
伊都将司 大阪大学大学院基礎工学研究科