イオン液体(IL)はイオンのみからなる常温・常圧下で液体の塩である。難溶性物質をよく溶解する性質を持つことから,医薬品開発において合成溶媒としての利用や難溶性薬物の溶解性改善等,種々の課題を克服する物質として注目を集めている1)。
近年,上記の性質を持つILは経皮ドラッグデリバリーシステム(TDDS)に盛んに応用されている。TDDSは安全性が高くメリットの大きい薬物の投与法であるが,皮膚は高いバリア能を有することから,薬物を体内に送達するためのテクノロジーが重要となる。筆者らは独自の油中ナノ分散化技術を用いたタンパク質のTDDS応用を報告してきた。その中で,タンパク質-界面活性剤複合体を分散したオイルに疎水性ILを添加することでタンパク質の経皮吸収性が向上,タンパク質抗原に対する抗体産生が有意に増加することから,経皮ワクチンの添加剤としてILが有効であることを見いだした2)。用いたILは側鎖にdodecyl基を有するカチオンとフッ素系アニオンからなるIL 1である。このILは界面活性剤様の構造を有しているため,皮膚中の脂質成分を部分的に溶解し経皮吸収性を向上させたと考察している。
最近は安全性の高いILとして,生体分子由来のイオンを用いたILが開発されている。筆者らは構造的多様性に富むアミノ酸を活用し,アミノ酸エステルをカチオン,弱酸の薬物サリチル酸をアニオンとして合成した薬物IL 2-4が,アミノ酸の種類に応じた細胞適合性や経皮浸透性を示すことを報告した3)。生体適合性ILの開発により,ILのTDDS実応用が進むと期待される。
1) K. S. Egorova et al., Chem. Rev. 2017, 117, 7132.
2) S. Araki et al., MedChemComm. 2015, 6, 2124.
3) R. M. Moshikur et al., Int. J. Pharm. 2018, 546, 31
若林里衣 九州大学大学院工学研究院