超音波療法(音響力学的療法)は,可視光や近赤外光を用いる光線力学的療法に比べて生体深度が非常に大きいため,新しいがん治療法として注目を集めている。そのメカニズムは,(1)超音波照射で生成するマイクロバブルが崩壊すると衝撃波が発生し,これが細胞膜を破壊する,(2)超音波照射下でポルフィリン誘導体が活性酸素種(ROS)を発生させる,という2つに分けられる。しかし(2)の分子性のポルフィリン誘導体は,生体内での拡散が早く,ターゲットとするがん細胞において高濃度状態を作ることが困難であった。
北京化工大学のLiu教授らは,イミダゾールと亜鉛からなるZIF-8と呼ばれる多孔性金属錯体(MOF)を焼成し,亜鉛ポルフィリン様構造(亜鉛に対し窒素が配位した二次元構造)を有する多孔性ナノカーボンを作成することに成功している1)。今回,Liu教授らは,この多孔性ナノカーボン材料の超音波療法への応用に成功した(図)2)。合成されたナノカーボンは超音波照射下(1 MHz)において,亜鉛ポルフィリンと比較すると,ほぼ同濃度の一重項酸素,より高濃度ヒドロキシラジカルを発生することを示した。この材料は,マイクロバブル発生の効率を向上させることも示された。
実際に,マウス由来乳がん細胞(4T1細胞)を用いた実験,また4T1を移植したマウス実験のどちらにおいても,このナノカーボン材料と超音波照射を組み合わせたときのみ,細胞死が誘起されることが明らかになった(効率85%)。MOF焼成によって作製されるナノカーボン材料は,MOF前駆体の構造を反映した特異的な分子構造を有するため,医療分野のみならずエネルギーなどの新しい分野への応用が期待される3)。
1) S. Wang et al., Adv. Mater. 2016, 28, 8379.
2) X. Pan et al., Adv. Mater. 2018, 30, 1800180.
3) H. Wang et al., Chem 2017, 2, 52.
古川修平 京都大学高等研究院