日本化学会

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プラスチックによる海洋汚染対策としての生分解性プラスチック

Biodegradable Plastics toward Measure for Marine Pollution by Plastics

プラスチックは丈夫で腐らないという特徴を活かして幅広い分野で利用されてきたが,自然環境中で分解されにくいために様々な環境問題を引き起こしている。近年,レジ袋等のサイズの大きいプラスチックごみとマイクロプラスチックによる海洋汚染が深刻になっている1)
生分解性プラスチックとは,使用後に微生物の働きで最終的に二酸化炭素と水にまで分解されるプラスチックと世界的に定義されている2~4)。生分解性プラスチックの多くは脂肪族ポリエステルであり,ポリ乳酸(PLA)が代表格であるが,海洋では分解されない。一方,ポリヒドロキシアルカン酸(PHA),ポリブチレンサクシネートは海洋中の微生物で分解される。現状では生分解性プラスチックはポリエチレン,ポリプロピレンといった汎用プラスチックより高価であるため,普及が遅れている。また,生分解性の表示によりごみの投棄が増えることも危惧されている。
プラスチックの分解は湿度,温度,微生物濃度等の環境条件に大きく左右され,生分解性を正しく評価する国際基準が定められている。PLAはアメリカ,中国,タイで工業生産され,ドイツでは脂肪族芳香族ポリエステルが工業化されている。日本では株式会社カネカがPHAの一種である3-ヒドロキシブタン酸と3-ヒドロキシヘキサン酸の共重合体(PHBH)の微生物合成法を開発し,事業化を進めている。PHBHの用途開発に向けて,ブレンド,複合化,成形技術等が活発に研究されている。
今後,海洋で生分解するプラスチックを利用した環境対策が本格化することを期待したい。

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1) M. Haward, Nat. Commun. 2018, 9, 667.
2) T. P. Haider et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2019, 58, 50.
3) T. Iwata, Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 54, 3210.
4) S. Lambert, M. Wagner, Chem. Soc. Rev. 2017, 46, 6855.

宇山 浩 大阪大学大学院工学研究科