化学反応における電子や原子のダイナミクスを動画として撮影し,反応機構の理解を深めることは,現代の物理化学における大きな挑戦の1つである1)。近年の短波長・短パルス源(X 線自由電子レーザーやパルス電子線)の開発により,数十フェムト秒(1 フェムト秒は10-15 秒)の分解能で,反応途中の原子の動きが明らかにされつつある。しかし,電子ダイナミクスは,より高速のアト秒(10-18秒)領域で主に起こるため,その動画撮影はいまだ困難である。
最近,筆者らは,アト秒の時間幅を持つ電子線の発生と,アト秒の時間分解能を有する電子顕微鏡・回折法の開発を報告した2)。図(a)はアト秒電子パルスの生成方法を示している。電子線は,レーザー光が照射された薄膜を通過すると,レーザー光による周期的な加減速を受け,パルス化される2, 3)。得られた電子パルスの時間幅は,820アト秒である(図(b))。
図(c),(d)は,アト秒電子パルスの初の応用例を示している。図(c)は,Si単結晶の透過電子回折像であり,アト秒の間だけの電子密度分布の情報が含まれている2)。今後のアト秒回折実験により,反応中の電子の動きが原子レベルの動画として撮影されるであろう。図(d)は,半導体薄膜表面に光で誘起した電磁場(黒矢印)をアト秒電子顕微鏡で捉えた結果である2)。電磁場のアト秒顕微鏡測定は,金属ナノ粒子など,物質中の電子が集団的に応答する系に応用できる。
1) 日本化学会編,"CSJ カレントレビュー18 強光子場の化学",化学同人,2005.
2) Y. Morimoto, P. Baum, Nat. Phys. 2018, 14, 252.
3) Y. Morimoto, P. Baum, Phys. Rev. A 2018, 97, 033815.
森本裕也 マックス・プランク量子光学研究所