日本化学会

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色素超分子構造体の形成を光で制御

Controlling Supramolecular Assembly of Pigments with Light

 光合成生物の一種である緑色光合成細菌は,特殊なクロロフィル分子(葉緑素)を生合成し,それらを自己集積させて,クロロゾームと呼ばれるチューブ状の色素集積型集光アンテナを形成させている1)。このような超分子構造体を時空間制御して形成することは生物にとっては簡単であるが,人工的に再現するのは非常に難しい。
 今回,光照射で除去できる保護基を組み込んだクロロフィル分子(ケージドクロロフィル)を新たに合成し,「紫外線照射で集積性クロロフィルを発生させ,その自己集積体の形成を開始させる」という手法で,天然クロロゾームと同様の色素集積体の形成に成功した(図a)2)。従来の手法で大量のクロロフィル分子を一度に集積させると,無秩序に集積した粒子状の色素集積体がまず形成された(図b)。一方で,ケージドクロロフィルを用いると,紫外線の照射に応じて集積性クロロフィルの供給量を時空間制御することが可能であるため,天然プロセス同様に徐々に集積体を形成させることができ,天然クロロゾームと同様のチューブ状の色素集積体が直接得られた(図c)。
 この光脱保護基は汎用性が高く,様々な置換基に導入することが可能であるため,ほかの超分子を構築する上でも有用であり,生細胞内での生体器官の構築原理の解明や新たな材料開発への展開も期待される。

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1) S. Shoji et al., Nano Lett. 2016, 16, 3650.
2) S. Matsubara, H. Tamiaki, J. Am. Chem.Soc. 2019, 141, 1207.

松原翔吾・民秋 均 立命館大学生命科学研究科