ストリゴラクトン(SL)は,strigol などに代表されるterpenoid lactone で,植物の枝分かれを制御する植物ホルモンであると同時に,菌根菌との共生シグナルとして土壌に放出される。このシグナルを嗅ぎつけて寄生する植物は多くの地域で農業被害を起こしており,特にアフリカではストライガと呼ばれる寄生植物が食糧生産に重大な影響を及ぼしている。これらの生理機能に関わるSL 受容体を制御する分子は,植物の分枝調節や寄生植物の発芽制御への応用が考えられる。
こうした化合物の探索は,SL受容体の機能を可視化する分子「ヨシムラクトン(YLG)」の開発により飛躍的に進んだ。初めに,YLG と遺伝子解析とを組み合わせたアプローチにより,ストライガのもつSL 受容体ShHTLs が同定された1)。これを契機に,この受容体の機能を阻害する化合物の迅速探索系が確立し,ストライガの発芽を抑制する化合物が見つかっている。一方,ストライガは発芽後4 日以内に寄生しないと枯死することから,高価かつ土壌中で不安定な天然SL に代わる発芽刺激分子は,自殺発芽剤としての利用が考えられる。こうした戦略から見つかった化合物sphynolactone-7 は,極めて希薄な濃度でストライガの発芽を誘導する2)。また,通常植物の枝分かれ抑制に関わるSL 受容体D14 を阻害する化合物DL1は,シロイヌナズナおよびイネにおいて枝分かれを誘導することがわかっている3)。枝分かれの促進はバイオマスの増加につながることから,この化合物は新たな植物成長調整剤としての応用が考えられる。世界人口の爆発的な増加により危惧される食糧問題の解決にむけて,こうした化学的視点からの取り組みが一助となることを祈る。
1) Y. Tsuchiya et al., Science 2015, 349, 864.
2) M. Yoshimura et al., ACS Cent. Sci. 2018, 4, 230.
3) D. Uraguchi et al., Science 2018, 362, 1301.
萩原伸也 理化学研究所