ハロゲン元素は,隕石や地殻岩石,マントル物質など,宇宙地球化学分野において興味深い試料中で,重要な情報となることが知られている。ハロゲンは元素間で揮発性が大きく異なることから,上
記の試料中における,その含有量や相対的な存在度(1 つのハロゲンに対するほかのハロゲンの存在度)を知ることが,試料の生成過程やその後の変成などの現象に対し,多様で貴重な情報を与えるか
らである。しかし,固体試料中の微量ハロゲン元素の定量分析が困難であることから,宇宙や地球の物質中の,その存在度に関する正確な値はあまり報告されていない。
筆者らは,従来の放射化学的中性子放射化分析法(Radiochemical Neutron Activation Analysis, RNAA)を改良し,それを用いて堆積岩標準試料中の微量ハロゲン元素(塩素,臭素,ヨウ素)を精密に定量した。得られた堆積岩標準試料中の臭素,ヨウ素の定量値と,現在,一般的な元素分析法として汎用的に用いられるICPMS により得られた定量値を比較すると,後者が系統的に低くなる傾向が示され,ICPMS の際の試料の前処理(pyrohydrolysis法)の段階で,臭素,ヨウ素が定量的に回収されていない可能性を示唆した 1, 2)(図)。さらにこの手法を用いて,米国地質調査所が頒布している標準物質中のハロゲンの分析を試みたところ,幾つかの試料において報告値と整合しないことが見いだされ,この原因として,先に述べた前処理方法の不備等の原因が明らかにされた 2, 3)。これらの成果は,得られたデータの信頼性という点でRNAAが非常に優れた方法であることを示唆しており,今後もこの手法が,宇宙地球化学分野において,微量ハロゲン濃度が重要である試料に適用されることはもちろん,材料分野等において,微量の不純物の評価にも適用されることが期待される。
1) S. Sekimoto, M. Ebihara, Anal. Chem. 2013, 85, 6336.
2) S. Sekimoto, Isotope News 2017, 754, 26.
3) S. Sekimoto, M. Ebihara, Geostand. Geoanal. Res. 2017, 41, 213.
関本 俊 京都大学複合原子力科学研究所