X 線自由電子レーザー(XFEL)を用いて,結合生成過程をフェムト秒で可視化する新しいアプローチを紹介する。
ジシアノ金錯体は金︲金イオン間に弱い分子間力が働き,溶液中では会合体が形成される。この会合体の最低励起状態は結合性σ軌道を持つため,光励起によって,会合体中で程よい距離にいる金イオン同士が共有結合を形成し,新しい分子が生成されることが予想される1)。
このような会合体をサンプルとして,XFEL を利用しフェムト秒X 線溶液散乱を行うと,拡散に律速されることなくフェムト秒スケールの結合生成過程を原子レベルで可視化することが可能となる。
本手法により,ジシアノ金錯体の三分子会合体におけるAu-Au-Au 構造は,基底状態S0では屈曲しているが,光励起直後に生成される中間体I1では直線状であることが可視化された。光励起後のピーク線幅の減少は,結合状態が分子間力から強固な共有結合に変化したことを示す。また,中間体I1の立体障害は1.6 ピコ秒で解消され,対称性を保ちながらよりコンパクトな中間体I2が生成されることや,I2は拡散により3 ナノ秒で単量体と衝突し,発光色が大きく異なる四量体(tetramer)を形成することもわかった。
今回,結合形成の全過程がフェムト秒の時間分解能で視覚的かつ定量的に追跡された2)。原子結合の形成は,化学反応に不可欠な過程である。本手法を応用することで,多くの光化学反応が,より詳細に理解されることが期待される。
1) M. Iwamura, K. Nozaki, S. Takeuchi, T.Tahara, J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 538.
2) K. H. Kim, J. G. Kim, S. Nozawa, T. Sato et al., Nature 2015, 518, 385.
野澤俊介 高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所