ペロブスカイト構造はアニオン配位八面体の頂点共有ネットワークから成る。八面体サイトには多くの遷移金属イオンを収容することが可能であり,磁性,強誘電性,超伝導など様々な物性を示す。配位八面体は結晶学的軸周りの回転やJahn-Teller変形など様々な構造歪を示し,原子配列の対称性を変化させるだけでなく,物性にも影響を与える。また,このような微小構造歪は応力に対して敏感であるため,エピタキシャル歪により誘起あるいは制御することが可能である。昨今の理論の発展,計算手法・技術や計算機性能の向上に伴い,第一原理計算により微小構造歪や物性変化を予測する研究が盛んに行われている。
単純ペロブスカイトEuTiO3はバルクの状態では反強磁性・常誘電性を示すが,引張歪を印加すると強磁性・強誘電性,すなわちマルチフェロイック状態になることが第一原理計算により予想され1),実験により確かめられた2)。
最近,東京工業大学の望月らは,バルクの状態では金属的挙動を示す層状ペロブスカイトLa3Ni2O7に圧縮歪を印加すると,パイエルス転移により絶縁体に変化することを第一原理計算を用いて予想した3)。この金属-絶縁体転移は,隣り合うNiO6八面体が交互に収縮・膨張する構造歪モード(いわゆるブリージングモード)の凍結を伴い,それにより電子バンド構造にギャップが生じることがわかった(図)。
今後も計算科学と実験の融合により,多彩な機能性材料が発見されることが期待される。
1) C. J. Fennie, K. M. Rabe, Phys. Rev. Lett. 2006, 97, 267602.
2) J. H. Lee et al., Nature 2010, 466, 954.
3) Y. Mochizuki et al., Phys. Rev. Mater. 2018, 2, 125001.
赤松寛文 九州大学大学院工学研究院応用化学部門