日本化学会

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柔らかい細孔体による分子分離

Molecular Separation by Soft Porous Materials

 大きさや形といった物理的性質の類似した分子を簡便に分離する技術が従来から望まれている。このような要求に対し,近年有望な材料群が見いだされつつある。それらの材料の共通した特徴に,構造の柔軟性が挙げられる。この柔軟性と,生化学の分野でときどき耳にする「鍵と鍵穴」の機能を協同的に発現させることができれば,従来材料では容易に実現できない優れた分離機能を発現できる。
 筆者らは,metal-organic frameworks もしくは porous coordination polymers と呼ばれる結晶性の有機-無機ハイブリッド材料を用いて,低次元材料の柔軟性制御に関する研究を行っている。例えば,2次元層状物質において,層構造を制御することで,柔軟性を付与することに成功している1, 2)。そして柔軟性材料は吸脱着に伴い層間構造を変化させて細孔を形成/変形していることがわかった(図)。この構造変化は分子種に依存し,ある条件下ではN2,O2,CO2といった空気の主成分のうちCO2に対してのみ構造変化する3)。これらの分子はどれも0.3~0.4 nmの大きさであり,形状も類似しているが,明確にそれらの分子種を見分けていることを意味する。また,混合ガス分離においても極めて高い分子選択性を示している。このような吸着分離機能は,幾つかの柔軟性材料においても見いだされてきており,柔らかさが織りなす機能に今後期待が高まる4, 5)

chem72-9-02.jpg1) A. Kondo et al., Nano Lett. 2006, 6, 2581.
2) A. Kondo et al., J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 12362.
3) A. Kondo et al., J. Phys. Chem. C 2012, 116, 4157.
4) A. Kondo et al., J. Mater. Chem. A. 2018, 6, 5910.
5) R. Matsuda, Nature 2014, 509, 434.

近藤 篤 東京農工大学工学部応用化学科