日本化学会

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ケミカルルーピングによるアンモニア合成

NH3 Production via a Chemical Looping Process

 アンモニアは化学肥料の原料として重要な化学物質であり,近年は再生可能エネルギーの貯蔵・輸送を担うカーボンフリーなエネルギー媒体としても期待されている。現在,種々の用途に合わせ,効率的にアンモニアを合成するために,世界中で活発な研究が進められている。
 高性能触媒の開発はその中心であり,不均一系ではBa-Ca(NH2)21)やBa0.1Ce0.45La0.45O1.672)などの担持Ru 触媒,均一系では,窒素ガス,水,そして還元剤としてのSmI2を用いてアンモニアを常温,常圧で合成できるMo 錯体触媒などが報告され注目を集めている3)
 また,反応工学に基づくアプローチによって温和な条件下でアンモニア合成の高速化に成功した例も報告されている。P. Chen らは,Ni-BaH2/Al2O3を用いた,水素と窒素を交互に供給するケミカルルーピングプロセス(図)によって常圧,100℃で5.76mmol-1h-1g-1という速度でアンモニアを合成できることを見いだした4)。このプロセスでは金属水素化物/イミドを介し以下の2 つの反応を経て,高効率なアンモニア合成を達成している。これらはいずれも100℃でΔG≒0であり,熱力学的に有利な反応である。

  4AHxxN2→2xA2/xNH+xH2 (1)
  xA2/xNH+2xH2→2AHxxNH3 (2)
  (x : A の価数と同じ数)

 触媒化学・反応工学の両輪が進歩することで,将来的に従来法を刷新するアンモニア合成プロセスの実現が期待される。

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1) M. Kitano et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2018, 57, 2648.
2) K. Sato et al., ChemRxiv, doi.org/10.26434/ chemrxiv.7763657.v1.
3) Y. Ashida et al., Nature 2019, 568, 536.
4) W. Gao et al., Nat. Energy 2018, 3, 1067.

永岡勝俊 名古屋大学大学院工学研究科