日本化学会

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固定されたモノマーと運動可能なモノマーの間の特異的な重合

Controlled Polymerizations between Fixed Monomers and Mobile Monomers

高分子合成の本質は1 つのモノマーが2 本の結合を形成し,無限に連鎖することにある。そのため,規則的に固定したモノマーと自由に運動可能なモノマーとの重合は溶液重合とは異なる挙動を示すと期待できる。最近,結晶であるMetal Organic Frameworks(MOF)を用いて,その配位子として固定されたモノマーとゲストモノマーとの重合において興味深い現象が報告されている1, 2)
 筆者らは最近アジド基を修飾したMOF 中に配位子として固定したジアジドモノマーとゲストであるジインとのクリック反応によるA-A/B-B 型の逐次重合を報告した1)。この重合では生成する高分子の重合度が両モノマーの仕込み比に大きく依存せず,特定の値に収束した。さらにMOF を構成する金属イオンを変化させると,ジアジドモノマーの配列が変化し,重合度も変化した。MOF 中のジアジドモノマーの配列に即した重合のシミュレーションを行ったところ,実験結果が再現され,モノマーの固定化とその配列により,重合度が制御できることが明らかになった。A-A/B-B 型の逐次重合を制御する新しい手法と考えられる。
 また,T. Uemura らによりMOFの配位子として固定されたモノマーとゲストモノマー間のラジカル連鎖重合においても,ナノ空間内で可動モノマーが配列し,高分子鎖の繰り返し構造が制御できることが報告されている2)。どちらの例も包接重合・トポケミカル重合に続く,第3 の結晶重合であり,特異的な新しい精密重合系として今後の展開が期待できる。

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1) S. Anan et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2019, 58, 8018.
2) S. Mochizuki et al., Nature Commun. 2018, 9, 329.

佐田和己 北海道大学大学院理学研究院