我々のディビジョンは名前のとおり企業中心の集まりであるが,だからと言って,今すぐに製品化や製造プロセスができそうなシーズを追いかけているわけではない。各企業に戻れば,短・中期の研究テーマが中心になるが,ここではもっと先を見た夢のある技術シーズを探そうと模索している。その中で,今回,京都大学化学研究所中村正治教授のご協力により,若手講演会が実現した。合同講演会のモチーフは,幅広い有機合成化学の分野から今輝いている若手研究者を集めようというものであった。昨年度はバイオベース素材開発をテーマに京都工芸繊維大学の田中知成先生に講演していただいた 1)。今年は,浅野圭佑先生(京大院工),塚野千尋先生(京大院農),新谷亮先生(阪大院基礎工)に講演をお願いした。
浅野先生の講演の中では,ひずみのある環状オレフィンを触媒として用いる有機触媒の新しい取り組み2),塚野先生からは,抗結核活性を有するカプラザマイシンA など特異な骨格を持ち,かつ,不安定な天然物の合成研究についてご紹介いただいた 3)。また,新谷先生からは,分子間での縫い合わせ型炭素︲炭素結合形成反応である「縫合反応」を用い新しいタイプのπ 共役化合物群を合成する方法についてご講演いただいた4)。
終始,活発な議論が行われ,懇親会の開始時間が大幅に遅れたことにより,本講演会がより印象深いものになった。
1) 田中知成,応用糖質科学,2019,9,17.
2) K. Asano et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2018, 57, 13863.
3) C. Tsukano et al., J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 8527.
4) R. Shintani et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2019, 58, 5734.
北山健司 株式会社ダイセル有機合成カンパニー