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界面活性剤と皮脂汚れとの特異的な相互作用を利用した新たな洗浄システム

New Cleansing System by Characteristic Interaction between Surfactant and Lipid

 皮膚洗浄において重要な性能は洗浄力と肌へのマイルド性である。主な汚れは皮脂であり,一般的には界面活性剤を用いて「こする」ことで除去され,そのメカニズムは界面活性剤の疎水界面への吸着による油水界面張力の低下である。界面活性剤は疎水界面である皮脂と肌を区別できないため,洗浄力とマイルド性はトレードオフであることが知られてきた。
 近年筆者らは,アルキルエーテルカルボキシレート(EC)が弱酸塩ゆえにユニークな会合挙動を示すこと1),さらにアルキル鎖長とEO鎖長の調整で,肌へのマイルド性と高い皮脂洗浄力が両立することを見いだした2)。この洗浄は,皮脂中にECが浸透し,汚れの中にラメラ液晶を形成して,皮脂を易洗浄化することで起こる。駆動力はECのカルボキシ基と皮脂汚れの主成分である脂肪酸のカルボキシ基間に働く水素結合性の引力により,特異的にヘテロな会合体を形成することである。この技術は,肌にマイルドな界面活性剤であるECが,水素結合性の親水基を有すること,皮脂中の脂肪酸と一緒に配向してラメラ液晶を形成しやすいようにECの形状を制御できたことで実現できた。汚れ中に形成した液晶により,脂肪酸以外の皮脂汚れは乳化されるため(液晶乳化),こすらなくても流すだけで汚れ全体を除去できる。従来の疎水界面への吸着とは異なる皮脂汚れへの直接的な作用により,肌にマイルドな界面活性剤でも高い洗浄力を実現することができた本システムは,現在皮膚洗浄剤系で実用化されている。

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1) T. Sakai et al., J. Phys. Chem. B 2013, 117, 5081.
2) a)M. Kagaya, C&I Communication 2019, 44, 52 ; b)M. Kagaya, Science and Industry 2017, 91, 158.


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