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任意の発光色素を円偏光発光色素に

A Versatile Method for Converting Fluorophores into Circularly Polarized Luminophores

円偏光発光(CPL; Circularly Polarized Luminescence)は螺旋状に進む発光であり,キラルな色素が示し得る特性である。左回りの発光は(+)-CPL,右回りの発光は(-)-CPLと表される。有機CPL色素は次世代の素材として有望視されているが,優れた色素の分子設計指針は確立されていない。他方で椿らはキラル軸が連続するナフタレン多量体を報告している1)。この多量体そのものは強いCPLを示さないが,密に置換基を配列させられるキラル源として貴重かつ有用である。
 筆者らは高汎用的なCPL誘起法の確立を目指し,エキシマー性の発光団を一方向にずらして固定すると強いCPLを発現するという仮説を立てた。ナフタレン四量体に複数の発光団を導入すると,連続する発光団同士の立体反発により理想的な配座の固定が実現できると考えた。発光団としてペリレン,ピレン,アントラセンを導入したところ,いずれも発光団由来の強いCPLを示した2)。理論計算により,発光団同士に加えてカルボニル基同士の反発が立体配座の固定を導いていることが示された。興味深いことに,発光団の種類や結合位置によりCPLの符号が異なっていた。実験と理論を組み合わせることで「発光団が右回りにねじれたエキシマーは(+)-CPLを,左回りにねじれたエキシマーは(-)-CPLを示す」という経験則を見いだし,エキシマー・キラリティー則と名付けた。今後,これらの手法や知見を利用して,高性能なCPL色素開発が期待される。

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1) K. Tsubaki et al., J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 16200.
2) K. Takaishi, T. Ema et al., J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 6185.

高石和人 岡山大学大学院自然科学研究科