日本化学会

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有効断片ポテンシャル分子動力学法による機能性溶液の物性予測

Property Prediction of Functional Solution by Effective Fragment Potential Molecular Dynamics

多くの科学技術は,様々な機能性溶媒により支えられている。例えば,有機カチオン・アニオンの組み合わせから成るイオン液体は,その不揮発性やガス吸収特性から,電池電解液およびCO2吸収剤への応用が期待されている。また,有機溶媒の超臨界流体は,微小な温度・圧力変化により溶質の溶解度を大きく変化させる優れた分離/抽出溶媒になる。これら機能性溶媒の自在な機能制御は,さらに安心で豊かな生活を目指す人類共通の夢の1つと言えよう。
溶媒機能の化学制御には,分子レベルで分子間相互作用を定量解明することが肝要である。溶媒機能の予測設計には,第一原理分子動力学計算(AIMD)の適用がfirst optionとなる。計算機・アルゴリズムの高速化により,かなり現実系に近い大規模AIMDも可能になった。最近筆者らは,昨今発展目覚ましいデータ科学との融合を目指し,AIMDをさらに高速化した有効断片ポテンシャル分子動力学計算法(EFP-MD)の拡張・応用に取り組んでいる1~3)。EFP-MD法では,溶媒を「相互作用した小分子(断片)の集合体」と捉え,簡便に求まる溶媒分子の波動関数から,機能性溶液の物性を第一原理予測する。EFP-MD法は,大規模計算機の長時間運用でのみ可能だったイオン液体・混合液体の溶液構造・過剰熱力学量予測を小型PCでも実施可能にした1, 2)。EFP-MDは,世界初の超臨界流体拡散係数定量予測にも成功している3)。今後,AIMDとデータ科学の融合による,さらなる機能溶媒設計の加速が期待される4)

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1) N. Kuroki, H. Mori, Chem. Lett. 2016, 45, 1009.
2) N. Kuroki, H. Mori, Chem. Phys. Lett. 2018, 694, 82.
3) N. Kuroki, H. Mori, J. Phys. Chem. B 2019, 123, 194.
4) C. Masuda, N. Kuroki, H. Mori, J. Comp. Chem. Jpn. 2020, doi: 10.2477/jccj. 2019-0046.

森寛敏・黒木菜保子  中央大学理工学部応用化学