日本化学会

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固体材料探索の新展開

New Development for Exploration of Novel Sold State Materials

新規化合物はこれまでにない新機能・高機能を発揮し得ることから,その探索は材料開発の有効な手段である。最近では,マテリアルズインフォマティクスに代表されるデータ駆動型材料開発やコンビナトリアルケミストリーの発達に伴い,新規固体材料探索には様々なアイデアが必要となってきている。  
Dongらは,イオン化エネルギーが最も大きいHeの化合物形成を,第一原理計算に基づき予測した1)。その結果,160 GPa以上の高圧でNa2Heが固体として安定に生成するとことが示唆され,実際に,ダイアモンドアンビルセルを用いることで,蛍石構造を有するNa2Heの合成に成功した。同時に,この化合物が,Naが作る立方体格子中に電子が存在するエレクトライドであることも明らかにしている。  
Marchunkらは,四面体リン酸ユニット(PO43-)の酸化物イオンが窒化物イオンに置き換わった[PO3N]4-ユニットを有するPON系化合物M2PO3N(M=Ca, Sr)の合成とその構造解析に成功した2)。同じく四面体ユニットを形成するSiやAlにおいては酸窒化物ユニットを形成する化合物が多く知られているがPではほとんど知られておらず,今後もPON系において新規化合物が見いだされるであろう。  
筆者らは最近,BaO-Y2O3-SiO2-Si3N4系で初めての化合物となるBaYSi2O5Nを発見し,これが蛍光体の母体として機能することを報告した3)。同時にフォノン計算により,同型のSrYSi2O5Nが存在"しない"ことを示唆した。この例のように,計算による"非"存在証明を併用した効率的な材料探索の発展も今後期待できる。

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1) X. Dong et al., Nat. Chem. 2017, 9, 440.
2) A. Marchunk et al., Inorg. Chem. 2016, 55, 974.
3) T. Yasunaga et al., J. Solid. State Chem. 2019, 276, 266.

小林亮  名古屋大学未来材料・システム研究所