日本化学会

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フルオラスケミストリーを利用した選択的分析法

Selective Analysis Method Utilizing Fluorous Chemistry

フルオラスとは,「親フッ素性の」という意味の造語であり,パーフルオロアルキル(PFA)基同士がもつ特異的な親和性のことを指す1)。何らかの方法で対象物質にPFA基を付加すると,PFA担持シリカゲルカラムへの保持や,パーフルオロアルカン類などのPFA溶媒(水や有機溶媒と混和しない)による抽出が可能となる。PFA基を有していない化合物は,それらに保持・抽出されないため,対象物質への「選択性」が担保される。
筆者らは,このフルオラス親和性を分析化学的に応用し,生体関連物質などの選択的分析に利用してきた。例えば,イミノ二酢酸(IDA)基をもつPFA試薬(PFIDA)を合成し,リン酸化合物の選択的抽出・分析法を開発した2, 3)。IDA試薬は,古くから金属キレートアフィニティー抽出に利用されている。その原理は,IDA基をリガンドとして金属イオンを固定化し,さらにその金属イオンにリン酸化合物が配位して複合体を形成することに基づいている。すなわち,鉄(Ⅲ)などを固定化したPFIDAにてリン酸化合物を捕捉すると,それのみをPFA溶媒にて選択的に抽出することが可能となる。実際に,キナーゼ反応後のリン酸化ペプチドと非リン酸化体との選択的分離抽出2)や,ヌクレオチド類の選択的抽出・分析3)に利用可能であることを示した。
分析化学において,対象物質への選択性を向上させることは,測定結果の「正確さ」を得る上で極めて重要である。フルオラスのような親和性は,そのための有用なツールになり得るものであり,このような方法論のさらなる発展を期待する。

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1) D. P. Curran, Science 2008, 321, 1645.
2) T. Hayama et al., Talanta. 2016, 156, 1.
3) E. Kiyokawa et al., J. Chromatogr. B 2018, 1074, 86.

巴山 忠 福岡大学薬学部