ペロブスカイトナノ結晶(PeNCs)は,高い発光効率・色純度等の優れた光学特性を有し,構造中のハロゲン組成による精緻な発光波長制御が可能なことから,次世代発光材料として有望視されている。さらに,既存の有機EL 材料に近いエネルギー準位を有していることから,有機EL ディスプレイの基本構造をそのまま流用でき,ディスプレイ用途への応用研究が盛んに行われている。このPeNCs の合成手法として,簡便な再沈法を用いた研究報告 1)は多数見られる。しかし現状,コロイド分散液状態では,高い光学特性を達成している一方で,これを薄膜化した際には,粒子径の不均一さにより,光学特性の著しい低下を引き起こすといった課題を残している。
上記課題に対し,筆者らは再沈法におけるPeNCs 分散液の結晶成長プロセスの詳細な検討 2)やPeNCs 合成時に投入する配位子の最適化 3)により,分散液状態で100% に近い発光効率を達成し,成膜後においても高い光学特性を維持したPeNCs の合成に成功している。現在では,PeNCs の実用展開に向け,再沈法を連続フロープロセスへと昇華させた「強制薄膜式リアクター法 4)」や超音波とビーズ粉砕を組み合わせた「超音波ビーズミル法」による工業化を見据えた大量合成プロセスの確立も試みている。
さらに,高い電子注入性を有する配位子によるPeNCs 合成検討も行っており,ディスプレイへの導入を可能とするPeNCs 薄膜の作製が実現しつつある。
1) F. Zhang et al., ACS Nano 2015, 9, 4533.
2) K. Umemoto et al., Cryst EngComm 2018, 20, 7053.
3) Y. Tezuka et al., Jpn. J. Appl. Phys. 2019, 59, SDDC04.
4) M. Takeda et al., Jpn. J. Appl. Phys. 2020, 59, SIIG02.
増原陽人 山形大学大学院理工学研究科