日本化学会

閉じる

トップ >化学を知る・楽しむ >ディビジョン・トピックス >分析化学 >分子動力学シミュレーションを利用した界面状態の予測

分子動力学シミュレーションを利用した界面状態の予測

Prediction of Interface Condition by Molecular Dynamics Simulation

界面は,物質の吸着や脱離,触媒反応など様々な現象が起こりやすい場である。このような現象を理解するために,界面の性質,状態を知ることは不可欠である。実験的に界面の状態を調べる方法として代表的なものに和周波発生(SFG)分光法がある。この方法は界面への界面活性剤の高い配向性を確認する1)ために利用されている。しかし,実験装置が高額なため利用できる人は多くない。そこで,計算科学的に界面の状態を調べる方法として分子動力学シミュレーションが注目されている。この方法では主に原子および分子の電荷や分子間力,熱力学的挙動に基づいてシミュレーションが行われる。
実際にシミュレーションが利用されている例を紹介する。Andohらは水中のエタノールの挙動についてシミュレーションを行い,エタノールが界面に配向するという知見を報告している2)。図は筆者がこの研究をもとにエタノールの気液界面への挙動をシミュレーションしたものである。この例は平衡時の状態について簡単なシミュレーションを行ったものであるが,近年では,良好な廃棄物固定化能を示すジオポリマー材料の固定化メカニズムの解明など,より複雑な現象の解明に力を発揮している3)。さらに,実測が難しい固体電解質界面の形成過程をリアルタイムで可視化するための手段として利用されている4)。このように有効な測定手段がない場合でもシミュレーションから構造,性質の知見を得ることができる。今後,コンピューター技術の進歩とともに,界面における分子動力学の理解においてシミュレーションが不可欠な時代が到来するだろう。

chem73-11-01.jpg

1) Vu N. T. Truong et al., J. Phys. Chem. B 2019, 123, 2397.
2) Y. Andoh, K. Yasuoka, Langmuir 2005, 21, 10885.
3) D. Hou et al., J. Nucl. Mater. 2020, 528, 151841.
4) Y. Zhou et al., Nat. Nanotechnol. 2020, 15, 224.

大岩真子 北見工業大学大学院