日本化学会

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AIを使った新規Li伝導性ポリマーの探索

Hunting New-type Li-conducting Polymers by AI

 AIを駆使した化学研究が盛んである。文献データの収集AI1)に加え,触媒を自動探索する"移動型ロボット化学者"も登場した2)。8日間あたり688回の超人的な実験速度と,膨大な集積データに基づくAIの緻密な実験判断は,次世代の研究開発を支える基盤技術となりえよう。  
高分子の世界にもAIの波が来ている。分子鎖の絡み合いに代表される複雑な相互作用に由来し応答予測が困難な領域であったが,解決の糸口として本技術が注目されているのである。  
筆者らも最近,二次電池への応用等で注目を集めるLi伝導性高分子固体の性能予測にAIを活用した3)。伝導体は多種の化合物を混合した組成物の場合も多く,純物質の場合よりも予測難度が高い。解析式や分子シミュレーションでの予測が難しい一方で,多量の文献データを綿密に学習したAIは新規組成に対しても優れたイオン伝導度の予測能を発揮した。さらに,分子運動性の観点から伝導体として不適とされてきた一部のガラス状高分子が高伝導度を示しうる示唆も出た。実測でも10-4-10-3 S/cmの高い室温伝導度が得られ,予測の有効性が判明した。
高分子に限らず,AIは研究者に種々の有益な示唆を与える力がある。現在は深層学習や量子計算機等の先端技術との融合に加え,実験家のためのユーザーフレンドリーなツール開発にも取り組んでいる。

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1) V. Tshitoyan et al., Nature 2019, 571, 95.
2) B. Burger et al., Nature 2020, 583, 237.
3) K. Hatakeyama-Sato et al., J. Am. Chem. Soc. 2020, 142, 3301.

畠山 歓  早稲田大学応用化学科