日本化学会

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生体内化学反応における効率的反応の仕組みの解明

Theoretical Investigations for Efficient Chemical Reactions in Biomolecular Systems

驚異的に優れた化学反応は生体内で起こっている。生命は誕生以来,38億年かけて進化し続けてきており,その過程で素反応は最適化されてきている。光合成や呼吸,代謝,情報伝達など,非常に複雑な化学反応でも,生命は使いこなしてきている。近年,エネルギー問題や環境問題が大きな社会的課題となっているが,これらの根本的問題は人類が思うように制御できない化学反応に集約される。よって根本的問題の解決には,それらを自在に使いこなしている自然系に学ぶことこそが,最も近道と考えられる。
筆者らは,量子古典混合計算法(QM/MM)を用いて,生体分子内の化学反応機構について解明を進めてきた。理論解析では電子の量子状態やプロトン化状態,遷移状態を探索することで,究極的に反応の仕組みを突き詰めることが可能である。
光合成の光化学系II酸素発生中心(PSII-OEC)において見いだした効率的反応の仕組みの1つは,協奏反応機構を用いていることが挙げられる。人工光合成系では生成物の酸素分子の放出が遅い反応となってしまっているが,自然系では次のサイクルで利用する基質水分子の取り組みと連動することで反応障壁を下げている1)。アミノ酸代謝に関わるサルコシン酸化酵素では,基質分子のコンフォメーション制御により,温和な反応機構で反応を進行させることができていることも見いだしている2)
近年,生体分子の構造解析学が劇的に進歩を遂げており,X線自由電子レーザーを用いた時間分解結晶構造解析やクライオ電子顕微鏡により,タンパク質の動的構造変化や巨大な生体分子複合体の立体構造が精密に解明できるようになってきている。よって,生体内の化学反応は確実に解明が進んできている。

chem74-1-01.jpg 1) M. Shoji et al., JPCB 2018, 122, 6491.
2) M. Shoji et al., PCCP 2020, 22, 16552.

庄司光男 筑波大学計算科学研究センター